企業研究で離職率の計算方法を調べるとき、多くの人が最初につまずくのは、そもそも離職率という数字が会社によって同じ意味で使われているとは限らない点です。
採用ページにある離職率、就職四季報などの就活向け資料に載る離職率、厚生労働省の雇用動向調査で示される離職率は、対象者、期間、分母、離職者の扱いが少しずつ異なることがあります。
そのため、企業研究では単に離職率が高いか低いかを見るだけではなく、どの期間の誰を対象に、どの計算式で出された数字なのかを確認することが欠かせません。
特に就活や転職活動では、離職率を企業の働きやすさだけで判断する材料にしてしまうと、成長による人材流動、職種特性、採用人数の増減、定年退職や事業再編の影響を見落とす可能性があります。
ここでは、企業研究で使える離職率の基本的な計算方法から、公開情報の探し方、数字の読み解き方、面接や会社説明会で確認したい質問まで、応募先を比較するために必要な視点を整理します。
企業研究で使う離職率の計算方法

企業研究で離職率を見るときの基本は、離職者数を基準となる従業員数で割り、百分率に直すことです。
ただし、離職率には法律で統一された単一の計算式があるわけではないため、同じ会社でも全社員の年間離職率、新卒入社者の3年以内離職率、部署別の離職率、職種別の離職率では意味が変わります。
企業比較に使うなら、まずは計算式をそろえ、次に対象期間と対象者を確認し、最後に業界平均や採用人数の規模と照らして読む流れが現実的です。
基本式
離職率の基本式は、離職者数を基準時点の従業員数で割り、100を掛けてパーセントにする形です。
たとえば、ある年の期首に従業員が1,000人いて、その年に50人が退職した場合は、50÷1,000×100で離職率は5%になります。
この計算では、期末時点の従業員数ではなく、基準時点の従業員数を分母にする点が重要です。
期中に大量採用があった会社で期末人数を分母にすると、退職の多さが薄まって見えることがあるため、企業研究ではどの時点の人数を使っているのかを確認する必要があります。
厚生労働省の雇用動向調査でも、離職率は年初の常用労働者数に対する離職者数の割合として扱われており、公的統計を読む際の基準になります。
厚生労働省方式
厚生労働省の雇用動向調査で使われる考え方では、離職率は1月1日現在の常用労働者数に対する1年間の離職者数の割合として整理されます。
この方式は企業研究で使いやすい基準の一つで、業界平均や全体平均と比べるときに数字の意味を合わせやすい利点があります。
厚生労働省の用語では、離職者には調査対象期間中に退職または解雇された常用労働者などが含まれ、同一企業内の他事業所への転出は除かれると説明されています。
企業の採用ページにある離職率と公的統計の離職率を比べる場合は、対象が常用労働者なのか、正社員だけなのか、契約社員やパートを含むのかを見ないと誤読しやすくなります。
公的な定義を確認したい場合は、厚生労働省の雇用動向調査や用語解説を参照すると、企業研究で使う数字の土台を作りやすくなります。
年度単位
就活や転職で企業を見る場合は、暦年ではなく事業年度で離職率が出されているケースも多くあります。
年度単位の計算では、前年度1年間の離職者数を前年度期首の社員数で割り、100を掛ける形が代表的です。
たとえば、4月1日時点で社員が500人いて、翌年3月31日までに25人が離職した場合は、25÷500×100で年度離職率は5%です。
年度単位は企業の人事制度、採用計画、決算資料と連動しやすいため、企業側が社内管理で使っている数字として自然です。
ただし、1月から12月の統計と4月から翌3月の企業資料をそのまま比べると、景気変動や採用時期の違いが入り込むため、比較する際は対象期間をそろえる意識が必要です。
新卒3年以内
新卒採用の企業研究では、新卒3年以内離職率が非常に重要な指標になります。
計算式は、特定年度に新卒で入社した人数のうち3年以内に離職した人数を、その年度の新卒入社者数で割り、100を掛ける形です。
たとえば、2023年度に新卒で40人入社し、2026年3月までに8人が退職した場合、8÷40×100で新卒3年以内離職率は20%になります。
この数字は若手の定着度を見やすい一方で、配属職種、研修制度、入社前後のミスマッチ、採用人数の少なさによって大きくぶれることがあります。
新卒採用人数が5人の会社で1人辞めると20%になるため、割合だけでなく実人数もセットで見ると、数字の印象に振り回されにくくなります。
職種別
企業研究で実態に近づきたいなら、全社平均の離職率だけでなく職種別の離職率を見る視点が重要です。
営業、エンジニア、販売、コールセンター、介護、施工管理、研究開発などは、仕事内容、成果の出方、勤務時間、顧客対応の負荷が大きく違います。
全社の離職率が低くても、自分が応募する職種だけ離職率が高ければ、入社後の働き方に課題がある可能性があります。
逆に全社の離職率がやや高くても、応募職種では長く働く人が多い場合は、全社平均だけで候補から外すのは早計です。
職種別の数字が公開されていない場合は、社員インタビューの在籍年数、募集職種の頻度、口コミの退職理由、説明会での質問を組み合わせて推測する姿勢が役立ちます。
部署別
部署別の離職率は、同じ会社の中でも働きやすさが一様ではないことを確認するための指標です。
大企業では本社部門、営業拠点、製造現場、開発部門、カスタマーサポート部門で労働環境やマネジメントの質が大きく変わることがあります。
部署別の離職率を計算する場合は、特定部署の期間内離職者数を、その部署の基準時点の在籍者数で割り、100を掛けます。
部署の人数が少ない場合は1人の退職で割合が大きく動くため、単年度だけで判断せず、複数年の傾向や異動者の扱いも確認したほうが安全です。
配属リスクを見たい就活生や転職者は、希望部署の平均勤続年数、異動頻度、管理職の育成方針、繁忙期の残業時間とあわせて見ると、離職率の背景を読みやすくなります。
計算例
離職率の計算は、数字を一度当てはめてみると企業研究で使いやすくなります。
次の例では、同じ会社でも対象者を変えると離職率の見え方が変わることがわかります。
| 対象 | 計算 | 離職率 |
|---|---|---|
| 全社員 | 30人÷600人×100 | 5% |
| 新卒入社者 | 6人÷30人×100 | 20% |
| 営業職 | 18人÷180人×100 | 10% |
| 開発職 | 3人÷120人×100 | 2.5% |
このように、全社員では5%でも、新卒や営業職だけを見ると数字が高くなることがあり、応募者が見るべき数字は自分の入社ルートや配属可能性によって変わります。
計算例を見たうえで重要なのは、離職率を企業の良し悪しを一瞬で決める点数にしないことです。
分母の注意
離職率で最も見落とされやすいのは、分母にどの従業員数を使っているかです。
期首人数、期末人数、年間平均人数、正社員数、常用労働者数、新卒入社者数のどれを使うかによって、同じ退職者数でも離職率は変わります。
企業研究では、採用ページの数字に計算式が書かれていない場合、低い数字に見えるから安心と判断するのではなく、対象範囲を確認する姿勢が必要です。
特に成長企業では、期中採用で社員数が急に増えるため、期末人数を使うと離職率が低く見えやすくなります。
応募前に数字の根拠が不明な場合は、説明会や面接で「公表されている離職率は正社員全体の年間離職率でしょうか」と聞くと、角を立てずに確認しやすくなります。
離職率を調べる場所

企業研究で離職率を調べる方法は一つではなく、公式情報、公的資料、就職情報誌、口コミ、採用担当者への質問を組み合わせる必要があります。
公式サイトだけを見ると企業が見せたい情報に偏りやすく、口コミだけを見ると不満を持つ人の声が強く見えやすいため、複数の情報源を横断して確認することが大切です。
離職率が公開されていない企業もありますが、その場合でも平均勤続年数、採用人数、従業員数の推移、有価証券報告書、募集頻度などから定着度の手がかりを得られます。
公式情報
最初に確認したいのは、企業の採用サイト、統合報告書、サステナビリティレポート、有価証券報告書などの公式情報です。
公式情報は企業が責任を持って公開するため、数字の出所を追いやすく、年度ごとの比較にも使いやすい傾向があります。
- 採用サイトの数字
- 有価証券報告書
- 統合報告書
- 人的資本開示
- サステナビリティ資料
ただし、公式情報に載っているのは全社平均や正社員全体の数字に限られることが多く、応募職種の実態までは見えない場合があります。
公式情報で全体像をつかみ、口コミや説明会で職種別の感触を補うと、企業研究の精度が上がります。
公的統計
企業ごとの離職率を直接知る資料ではありませんが、公的統計は業界平均と比べるための基準になります。
厚生労働省の雇用動向調査では、産業別、性別、就業形態別などの入職率や離職率が示されており、応募先企業の数字が業界の中で高いのか低いのかを考える材料になります。
| 見る資料 | 使い方 | 注意点 |
|---|---|---|
| 雇用動向調査 | 業界平均を知る | 企業別ではない |
| 有価証券報告書 | 従業員数を確認する | 離職率がない場合もある |
| 人的資本開示 | 人材指標を見る | 定義の確認が必要 |
2025年に公表された令和6年雇用動向調査結果の概況では、2024年の離職率は14.2%と示されていますが、これは全産業の公的統計であり、個別企業の良し悪しを直接決める数字ではありません。
業界平均との差を見るときは、同じ産業分類に入っていても企業規模、雇用形態、職種構成が違う点を考慮する必要があります。
口コミ情報
口コミサイトやSNSは、離職率そのものよりも退職理由の傾向を知るために使うと有効です。
給与、人間関係、残業、評価制度、キャリアの頭打ち、異動の多さなど、数字の背景にある不満や納得感を読み取れる場合があります。
一方で、口コミは退職者や不満を持つ人の投稿が集まりやすく、現在の制度変更が反映されていないこともあります。
そのため、口コミで気になる退職理由を見つけたら、それを事実として決めつけるのではなく、説明会や面接で確認する質問に変換するのが現実的です。
たとえば「若手の退職が多い」という口コミを見た場合は、「若手社員が定着するためにどのような研修や面談を行っていますか」と聞くと、企業の対応姿勢を見やすくなります。
離職率を読むときの基準

離職率は低いほどよいと考えられがちですが、企業研究では単純な高低だけで判断すると誤解につながります。
業界によって人材流動性は違い、若手の採用比率が高い会社、成長中で組織再編が多い会社、成果主義が強い会社では、離職率の意味が変わります。
重要なのは、離職率がなぜその水準なのかを、仕事内容、採用方針、育成制度、待遇、キャリアパス、企業の成長段階とセットで読むことです。
業界差
離職率を読むときは、まず業界差を前提に置く必要があります。
宿泊、飲食、生活関連、サービス、小売などは人の入れ替わりが比較的多くなりやすく、インフラ、製造、金融の一部、研究開発職などは相対的に低く見えることがあります。
- 接客比率が高い
- シフト勤務が多い
- 若年層の採用が多い
- 繁忙期の負荷が大きい
- 転職市場が活発
同じ10%でも、業界平均が高い業界では低めに評価できる場合があり、業界平均が低い業界では注意して見るべき場合があります。
企業研究では、全産業平均との差だけでなく、応募先と近い業種、職種、雇用形態の水準と比べることが欠かせません。
企業規模
企業規模によっても離職率の読み方は変わります。
社員数が少ない会社では、数人の退職で離職率が大きく上がるため、単年度の割合だけを見て不安視しすぎるのは危険です。
| 企業規模 | 起きやすい見え方 | 確認したい点 |
|---|---|---|
| 小規模 | 1人の退職で大きく変動 | 実人数と理由 |
| 中規模 | 部署差が出やすい | 配属先の状況 |
| 大規模 | 全社平均が薄まる | 職種別の実態 |
大企業では全社平均が安定して見えても、特定部門の離職率が高いことがあります。
中小企業では社長交代、新規事業撤退、主要顧客の変化などで一時的に退職が増えることもあるため、背景を聞ける場面では単年度ではなく過去数年の傾向を確認すると判断しやすくなります。
採用人数
離職率を見るときは、採用人数の規模を必ずセットで確認します。
新卒採用を毎年100人行う会社と、毎年5人だけ採用する会社では、同じ退職者数でも割合の意味がまったく変わります。
採用人数が多い企業では、一定数のミスマッチが生じやすい一方で、研修制度や同期コミュニティが整っていることもあります。
採用人数が少ない企業では、配属や教育が個別に手厚い場合もあれば、育成の仕組みが属人的で合わない人が辞めやすい場合もあります。
企業研究では、離職率だけでなく、入社人数、定着人数、配属先、研修期間、メンター制度の有無を組み合わせて、入社後のミスマッチを減らす材料にすることが大切です。
離職率が高い会社の見極め方

離職率が高い会社を避けたいと考えるのは自然ですが、数字だけで危険な会社と決めつけるのは早すぎます。
高い離職率には、労働環境の問題がある場合もあれば、事業成長に伴う採用拡大、若手のキャリアチェンジ、成果主義による人材の入れ替わりなど、複数の背景があります。
企業研究では、離職率の高さを入り口にして、退職理由、改善策、入社後の支援体制を確認することが重要です。
退職理由
離職率が高い企業を見るときは、退職理由の種類を分けて考えることが大切です。
給与への不満、長時間労働、人間関係、評価制度への不信、仕事内容とのミスマッチ、キャリアアップ転職では、それぞれ意味が違います。
- 労働時間への不満
- 評価制度への不満
- 仕事内容のミスマッチ
- キャリアアップ転職
- 家庭事情や転居
会社に問題がある退職と、個人のキャリア選択による退職を分けずに見ると、離職率の数字を過度に悪く受け止めてしまいます。
説明会では退職理由を直接聞きにくい場合もありますが、「若手社員がつまずきやすい点は何ですか」と聞くと、企業側の認識を自然に確認できます。
募集頻度
求人が常に出ている会社は注意して見たい一方で、求人が多いことだけで離職率が高いとは限りません。
事業拡大、店舗展開、新規部署の立ち上げ、欠員補充、採用難による長期掲載など、募集頻度が高い理由は複数あります。
| 求人が多い理由 | 見方 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 事業拡大 | 前向きな採用 | 売上や拠点数 |
| 欠員補充 | 離職の可能性 | 同職種の頻度 |
| 採用難 | 条件の課題 | 待遇と働き方 |
同じ職種、同じ勤務地、同じポジションの求人が長期間繰り返し出ている場合は、人が定着しにくい可能性を考えてよいでしょう。
一方で、採用人数や新規事業の計画が明確に説明されている場合は、単なる欠員補充ではなく成長投資としての採用である可能性もあります。
面接質問
離職率の不安は、面接やカジュアル面談で確認できる質問に変えると、企業研究の成果として活用できます。
ただし、いきなり「離職率が高い理由は何ですか」と聞くと、相手に警戒されることがあるため、聞き方を工夫したほうがよいです。
たとえば、「入社後に活躍している方に共通する特徴はありますか」「定着のために力を入れている制度はありますか」と聞けば、企業の育成姿勢が見えます。
また、「直近で若手社員の働き方や評価制度に変更はありましたか」と聞くと、離職課題への改善姿勢を確認しやすくなります。
質問への回答が具体的で、数値や制度名、運用例まで説明される会社は、少なくとも人材定着を管理対象として見ている可能性があります。
離職率だけで判断しない企業研究

離職率は便利な指標ですが、企業研究で見るべき情報の一部にすぎません。
低い離職率でも成長機会が少ない会社はあり、高い離職率でも経験を積みやすく、キャリアアップの踏み台として選ばれる会社もあります。
自分に合う企業を見つけるには、離職率を待遇、仕事内容、育成制度、評価制度、働き方、社風、キャリアパスと結びつけて判断する必要があります。
平均勤続年数
平均勤続年数は、離職率と一緒に見ることで定着度を立体的に把握できる指標です。
平均勤続年数が長い会社は、長く働く人が多い可能性がありますが、必ずしも若手が働きやすいとは限りません。
- 年齢構成
- 新卒比率
- 中途比率
- 定年退職者数
- 職種構成
たとえば、ベテラン社員が多い会社では平均勤続年数が長く見えますが、若手の離職が多い可能性もあります。
反対に、創業から年数が浅い成長企業では平均勤続年数が短く出やすいため、それだけで定着しない会社と判断するのは適切ではありません。
残業時間
離職率の背景を読むうえで、残業時間は非常に重要な補助指標です。
離職率が高く、かつ平均残業時間も長い場合は、業務量や人員配置に課題がある可能性があります。
| 組み合わせ | 読み方 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 離職率高い・残業多い | 負荷に注意 | 繁忙期と人員体制 |
| 離職率高い・残業少ない | 別要因の可能性 | 評価や給与 |
| 離職率低い・残業多い | 我慢の文化に注意 | 有休と健康管理 |
残業時間を見るときは、全社平均だけでなく職種別、部署別、繁忙期の差を確認することが大切です。
平均残業時間が低くても、特定部署だけ長時間労働が常態化している場合は、自分の配属先に近い情報を優先して判断する必要があります。
育成制度
若手の離職率を考えるうえで、育成制度の有無と運用実態は重要です。
研修制度、メンター制度、1on1、配属後面談、キャリア面談が整っている会社は、入社後の不安やミスマッチを早く拾いやすくなります。
ただし、制度名があるだけで機能していない会社もあるため、実際の頻度や誰が担当するのかまで確認したほうがよいです。
社員インタビューで若手が成長過程を具体的に語っている場合は、育成が現場で動いている手がかりになります。
離職率がやや高くても、改善策としてオンボーディングや配置転換の仕組みを整えている会社なら、過去の数字だけで判断せず、現在の取り組みを見る価値があります。
離職率の計算方法を企業研究に生かす考え方
企業研究で離職率を使う目的は、応募先を単純にふるい落とすことではなく、入社後に自分が納得して働ける可能性を見極めることです。
基本の計算式は離職者数÷基準時点の従業員数×100ですが、企業ごとに対象期間、対象者、分母、離職者の範囲が違うため、数字の前提を確認しなければ比較材料として弱くなります。
公的統計や業界平均で全体の水準をつかみ、企業の公式情報で全社傾向を見て、口コミや面接質問で職種別の実態を補う流れにすると、離職率を実践的な判断材料にできます。
離職率が低い会社でも自分に合うとは限らず、離職率が高い会社でも理由が明確で改善策が進んでいるなら候補に残せる場合があります。
最終的には、離職率、平均勤続年数、残業時間、採用人数、育成制度、評価制度、退職理由を組み合わせ、自分の価値観と照らして判断することが、後悔しにくい企業選びにつながります。



